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通称「アルマジロ」 ニコラス・グリムショー / ウイットビィ & バード / ベルリン
Ludwig Erhard Haus/ Nicholas Grimshaw / Whitby and Bird / Berlin
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ベルリン証券取引所は、正式には、かつてのドイツ首相の名を取り 「ルードビッヒ=エルハルト・ハウス」と呼びますが、 市民にはむしろ、そのユニークな形態から「アルマジロ」の名の方で通っています。

■イセエビのような外殻構造

本建物の最大の特徴は、ファサードに見て取れるアーチです。
計6-8層の床をサスペンダー=吊材で アーチまで吊り上げ、その全ての重量を支えています。
これにより1階は無柱空間となっています。

アーチは等分布荷重に対して軸力のみで抵抗し、曲げモーメントをほとんど生じませんから経済的(小さな断面)で済み、 また建築デザイン的にもシンボリックであり優れています。

また曲面外壁を構成する各アーチ間はRC壁(シェル)となっており、長手方向の水平力(アーチの将棋倒し)に抵抗します。

このように本建物のユニークな形態は、建築家の単なる形遊びではなく、構造形態を忠実に反映したものです。

本建物は主体構造=アーチ、RCシェルが建物外側に集約されており、このような構造を 「外殻構造」と呼びます。
ちょうどイセエビやカニのように外の殻が構造、骨となっており、その内部に建築空間を内包しています。

■アーチ変形:EVシャフトは独立

本設計でエンジニアを悩ませたのは床、アーチの変形でした。

オフィスの昼夜の使用状況により、 サスペンダーは伸び縮みし、また場合によっては偏分布荷重となることによりアーチはさらに変形します。(図2) (アーチは偏分布荷重に弱い。DG銀行参照)

この変形に対し建物各部が追従する必要があるのですが、その影響が最大のものが建物中央のEVシャフトでした。

結果的にEVシャフトは様々に動くアーチ:建物本体とは分離された、 下部構造からの独立構造体となっています。(図1)

■ 「19世紀の亡霊」との格闘

本建物はベルリン市への建築申請の際、建築行政局の指導により非常に残念なことが起こりました。

そのひとつは、建物の道路側の壁について、「壁面はいかなる場合も垂直でなければならない」 というものでした。

19世紀に定められた亡霊のようなこの建築条例に、当然、設計者は懸命な説得、交渉を行いました。

しかし、残念ながら結果的には認められませんでした。
その結果、道路側についてはアーチとは無関係の垂直の壁面が設けられ、 特徴的なアーチは覆い隠されてしまいました。
(写真1写真4)

もうひとつはサスペンダーで、設計者は高強度材の使用を考えていました。

しかしこれについても認められず、 一般的なスティールとした上でさらに耐火カバーを設けるよう要求されました。
これにより、 サスペンダーは見た目が本来のものよりも数段太いものとなってしましました。

アルマジロ

アルマジロ

イセエビ

イセエビなどの節足動物
外皮が骨:構造となる


分解図

図1:建物の構成を示す分解図

1F平面は敷地形状に対応しており、
上に架かるアーチスパンもそれに呼応する。
中央は床から立ち上がるEVシャフト

図2:床、アーチの変形

左:床重量により吊り材は伸び、床は下がる
右:床片方のみに荷重が集中すると、アーチは反対方向に大きく変形する



■建築家とエンジニアの緊密なコラボレーション

「1Fにコラムフリースペースを設ける」という条件を満たす構造としては、(図3)のように、建物両脇にのみ柱を設け、 トラスでその間を渡す、という方法もあるでしょう。
しかし本実現案と比べれば 建築的魅力の圧倒的な差は歴然です。

また本計画は、「吊材で床荷重をアーチまで吊り上げ、そのアーチで全荷重を負担させる」という構造アイデア (解決法)を知らなければ永久に出てこない案です。

本アイデアが、建築家か、エンジニアか、どちらから出たものなのかは分かりませんが、プロジェクト当初からの、 両者の緊密なコラボレーションのもとで計画されたことだけは間違いないでしょう。

図3:1Fに無柱空間を作る代案

左:屋根にメガトラスを設け、各階床を吊る
右:各階にトラスを設ける

関連リンク

Grimshaw

ニコラス・グリムショー オフィシャルサイト

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こちらも上記と同じで、その2作目です。

こちらの方はグリムショー氏の出生作となったロンドンユーロスター駅、 船を思わせるウエスタンモーニング社屋(表紙)、ゼビリヤ万博イギリス館などが含まれています。

出版は約10年前ですが、 グリムショー氏の、エネルギー全開のディテールが炸裂! しており、一見の価値あり!です。オススメ!

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Archstructure





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