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銀色の会議室を守る、透明なシェル屋根 フランク・O・ゲーリー / ヨルグ・シュライヒ / ベルリン
DZ Bank Berlin/ Frank O Gehry / Jorg Schlaich / Berlin
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photo:©Roland Halbe(左三点)
フランク・オー・ゲーリーDZ銀行は、ファサードこそ、 ライムストーンの穏やかな表情ですが、中へ入るとビックリ!ドラマティックなアトリウムが現れます。
中央にはゲーリー専売特許の、彫刻的な銀色の会議室、その上にはそれを守るかのように、透明な ガラスのシェル屋根がかかっています。

■ブランデンブルグ門のそば

DZ銀行は、ドイツの首都: ベルリンのブランデンブルグ門のそばに立ち、 DZ銀行社のオフィスと、住居部:いわゆるマンション部とより構成される複合ビルです。

すぐそばには、ガラスドームを持つノーマン・フォスターの、 ドイツ連邦議事堂:ライヒスターク が建っています。(右写真)

本建物全体はロの字型平面をしており、その中央の中庭:アトリウムに銀色の会議室、 その上にガラスのシェル屋根がかかっています

ライヒスターク / ノーマン・フォスター

■シェル屋根

芸術的な会議室の上を覆うシェルは、3角形グリッドのガラス受け材で構成されており、 所々にケーブルによる特徴的な補強材:スポークが設けられています。
このスポークはその形状からスパイダーズウェブ = くもの巣とも呼ばれます。

スポークが取り付くガラス受け材は、 アーチ状に若干大きくなっています。 このアーチの下端に建物本体からH鋼ブラケット (梁) がでており、屋根の重量は基本的にこのH鋼の所のみで支持されます。 (図1)

シェル重量の力の流れは、まず個々のガラス受け材からアーチへ伝達され、その後H鋼ブラケットへと渡されています

シェルを、ただの曲がった曲面ではなく、構造的にシェル、すなわち面内力で力を伝達するシステムとするには、 その曲面形状が、特に支持点位置において、変形しないように拘束されている必要があります。

この面をシェルのダイヤフラムと呼びます。



図1:DZ銀行:屋根概形図


a:3角形グリッドのシェル構造体
b:アーチ及びスポーク
c:建物からのH鋼ブラケット

■ダイヤフラム:スポーク

ダイヤフラムの具体的な方法としては、古典的には端部を妻壁でふさいだり、 リブ梁を設けるなどの方法があります。(図2)

本建物では、H鋼がある面にダイヤフラムを設ける必要があるのですが、それがこのスポークで成し遂げられています。

スポークは見ての通り、か細いワイヤー材で構成されていますが、ワイヤーは通常、圧縮力には抵抗できません。

しかし図3のように、ある片方、例えば左側に雪などによる力がかかった時には主に右側が引張抵抗し、 逆の時にはその反対、とすることで、スポークを全て引張材のみで構成することが出来ます。

もしこのスポークがない場合、図3-cのようにアーチは大きく変形して 曲げモーメントが生じるので、アーチを見るに堪えないほど太くする必要があります。
しかしスポークのおかげで図3-bのように変形もモーメントもほとんど生じません。

また、もしダイヤフラムに圧縮材を用いなければならなかったら、 その材は座屈に耐えうるよう太い材としなければならないので、屋根の透明性を大きく損なう 結果となったでしょう。


■スポークの恩恵に浴す

このスポークの恩恵を受けて、シェル面の部材はシェル構造 として働き、ガラス受け材は主に面内応力による 軸力:圧縮力か引張力のみを受けます。その結果、部材は見ての通り極限まで細い部材とすることができます。

前述した妻壁でふさぐ方法などと比べると、このスポークの解決方法はきわめて洗練された方法と言え、 まさに「現代の構造デザイン」と呼ぶに ふさわしいと思われます。

図2:ダイヤフラムの例

a:妻壁にてふさぐ b:リブ梁を設ける

図3:アーチに偏荷重が作用した時

a:スポーク付きの時。
右側の材が引張抵抗する。
左側、点線の材はゆるんでいる
b:変形とモーメントの概形
 (両者はほぼ相似。)いずれも小さい。
c:スポークがない場合。
変形、モーメントとも大きく生じる。


■橋に転用したアイデア

さて、このように建築の屋根に使われているスポークですが、これをこのまま橋 = アーチ橋に転用することもできます。
橋梁の場合でも図3のcのようにアーチに偏荷重が掛かると大きく変形してしまい、これに対処するのが大きな問題だからです。

ここでは図4のような3つの案を紹介します。
いずれも赤線が補強ケーブルです。

一番上がDZ銀行と全く同じタイプのスポーク、
中段はそれに類似した対角線的に配置したケーブルの案、いわば橋にブレースを配置したようなもの。
最下段はケーブルでトラス的な構成としたものです。

いずれの場合も偏荷重に対してケーブルが緑の線のように引張力で抵抗し変形を抑えますからその結果、アーチを細くすることが出来ます。

あえて難点を言えば、これら補強ケーブルが視覚的にタテの吊りケーブルに対して視覚的に煩雑、惑わせてしまいスッキリしないことでしょうか。

図4:橋梁に転用した場合

いずれの案でも偏荷重による変形を抑えることができ、アーチを細い断面とすることができる


フランク・O・ゲーリー氏はカリフォルニアを拠点とする建築家で、 2000年に完成したスペイン、ビルバオの グッゲンハイム美術館は、 建築界に強烈な衝撃を与えました。


ヨルグ・シュライヒ氏はドイツ、シュツットガルトを拠点とする、 現代の構造設計家のエースの一人です。

若い頃にはミュンヘンオリンピックのテンション屋根構造の設計にも参加、 その後、建築、橋、土木構造物など、あらゆる種類の構造物を設計しています。


グッゲンハイム美術館

グッゲンハイム美術館

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シュライヒ氏の事務所:シュライヒ・バーガーマン

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近作:DZ銀行や、ベルリン駅、グランドゼロ計画(表紙)を含み、 また、過去の多彩な作品:きわめてユニークな歩道橋や、長大橋、テンション屋根構造、 ソーラーパワーシステムなどを詳細に記述しています。

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'17/07/15  アーチへの転用の項を追記
'05/05/06  更新
'04/09  upload