グラン・アルシュ:ヌアージュ

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大階段の上の現代彫刻:「雲」 ヨハン・オットー・スプレッケルセン、ポール・アンドリュー、/ピーター・ライス with RFR,アラップ / パリ
Grand Arche: Nuage / Johan Otto Spreckelsen, Paul Andreu / Peter Rice with R.F.R. Ove Arup/ Paris

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パリ新都心:デファンス地区のシンボルとなっているグランアルシュ。 大きくくりぬかれた風穴の足元には不定形な雲が漂っています

■グラン・アルシュ

グランアルシは当時の仏大統領:フランソワ・ミッテラン主導のパリ大改造計画: グランプロジェの一環として、 また1980年に開かれたパリでの先進国首脳会議;サミットの会場として 計画されました。

設計にあたり国際コンペが行われ、ヨハン・オットースプレッケルセンの案: 四角のビルの中が大きくくり貫かれている大胆な案が採用されました。

設計にあたり、スプレッケルセンは、巨大で単調なアルシュに 、何かヒューマンスケールを与えるものを挿入したいと考えました。
そこで足元の大階段部に庇を設けることとしました。

庇の構造はガラスなど紆余曲折がありましたが、最終的に、雲をイメージした、 白い膜構造で作ることと決定されました。なおヌアージュとは仏語で「雲」を意味します。

■ヌアージュの構造

ヌアージュの構造は以下のようになっています。(図1)

まず、膜の外周に、膜材の境界となる境界ケーブが張り巡らされています。

この中に、ほぼ平行に、凸レンズ状のケーブルガーダー(ケーブルによる梁) が架かっています。(図2)

このガーダー間に、膜材が張られ、これが二次ケーブルで押えられてほぼ正方形の膜ユニット が構成されています

膜ユニット中央は、膜に張力を与えるために束材で突き上げられています。 この突き上げることで正方形ユニットの中央が盛り上がり、 ちょうど雲のモコモコッっとした感じが表現されています。

またこの突き上げ点には透明な円形パネルが設けられ、  これにより上を見透かすことができ、雲の半透明性を表現しています。

つまりヌアージュは「雲」をテーマとした抽象彫刻であるといえます。

そう言われると、四角いアルシュは、ヌアージュという彫刻を納める「額縁」のようにも思えます。



グランアルシュとその足元のヌアージュ
アルシュの風穴は「まだ見ぬ未来への窓」とも評された


図1. ヌアージュ:全体の概形

a:境界ケーブル  b:膜 面 c:吊りケーブル
d:ケーブルガーダー  
対称な二枚の膜が中央で接している

図2. A-A'断面:ケーブルガーダー

a:境界ケーブル  b:ケーブル(上側) 
c:ケーブル(下側)  d:膜面 e:束材 

ケーブルガーダーは境界ケーブルにより外側に引っ張られ(緑の矢印) 張力が導入される。
膜は構造的には上ケーブル、下ケーブルいずれにも張ることができるが、下ケーブルに張ることで、 上方(上図右)ほど、どんどん上に上がっていく上昇感が演出される

■アルシュのお陰で。。

テンション構造であるヌアージュは、 アルシュ内に置かれたことで一般的なテンション構造とは 大きく異なる二つの特徴:メリット・デメリットがありました。

ひとつは、アルシュのおかげで、 テンションケーブルをどこからでも引っ張ることができたという点です。 (図3)

一般的にテンション構造は、吊り上げたケーブルを、 ポスト(支柱)などを経由して、最終的には地面に固定する必要があります。
グランデビーゴローヴェントール橋を参照)
空中にケーブルを留めるわけにはいかないので当然です。

しかしこのヌアージュは、周りにアルシュの壁があったため、その心配が無いわけです。

もうひとつの点は、アルシュのために風圧力が大きくなったという点です。

アルシュに開けられたの大きな風穴は、 まさに風の通り道となり、その中のヌアージュは、あたかも風洞実験のトンネル内に置かれているかのよう な状態となりました。(図4)

これにより、そこを通る強風にさらされてしまう結果となってしまいました。


図3.アルシュと吊りケーブル

左:一般のテンション構造は、吊り上げたケーブルを、 支柱を介して最終的に地面まで引き下げる必要がある
このため一般に支柱は構造本体よりも高くなる。
右:アルシュの壁のお陰で自由にケーブルを留められる


図4 アルシュによる強風

アルシュのためにそこを通る強風 (しかもある特定方向)
にさらされる


■ユニバーサルジョイント

境界ケーブルとケーブルガーダーの交点はボール状の金物:ユニバーサルジョイントが用いられています。

ユニバーサルジョイントとはベアリングなどを組み合わせることで、空間のあらゆる方向に回転可能な金物のことです。

これにより、ケーブルがどんな角度で取り合ってきても、たった一つのジョイント部材で 全ての箇所に対応できるので、製作の手間が大幅に軽減されるメリットがあります。

■デファンスの顔

アルシュ、及びヌアージュは、その斬新,新奇な形態のため、ご他聞にもれず、パリジャンたちの 大きな議論の的となりました。

しかし、同じく大激論を呼んだパリのシンボル:エッフェル塔や、ルーブルのガラスピラミッドのように、 最終的には市民に受け入れられ、いまやパリ副都心:デファンス地区の顔として、親しまれています。

同じデファンス地区:ジャパンブリッジ >>

図5. ユニバーサルジョイント

関連リンク

R F R

ヌアージュを構造設計した、ピーターライスが設立した R F R

ARUP

オブ・アラップ・アンドパートナーズ

books

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\3,990
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ピーター・ライス自伝―あるエンジニアの夢みたこと
ピーター・ライス(著)  岡部憲明(監訳)     
ライス自ら設計哲学を語る貴重な本

タイトル通り、ピーターライス自身による自伝。具体的な技術点よりも、 設計哲学、その他エッセイ的なものに重点が置かれたものとなっています。
原書はライスの死去後('92.10)まもなく出版されました。

師:オブアラップについて、シドニーオペラハウスでの経験、建築家とエンジニアの役割の違い、 膜、ガラス、鉄、石などの材料について  - などが述べられています。ヌアージュについても詳述されています。

関西空港などで協働した岡部憲明氏が監訳しています。

表紙は、月明かりで野外舞台を照らすという、ロマンティックな「フルムーンシアター」。


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★★★

洋書
Paul Andreu: Architect Philip Jodidio,  Paul Andeu (著)     
空港の第一人者:P・アンドリューの「極東」での仕事など

グランアルシュの建築設計を担当し、フランス、パリの空港公団のチーフアーキテクトであるポール・アンドリューは、 世界に50以上の空港を設計しており、ヘルムート・ヤーンと並んで、空港建築のトップアーキテクトです。 特にパリのシャルルドゴール空港(通称:ロワシー)で知られています。

本書では、上記ロワシーや各国の空港、また、近作として、 大阪のガラスドームを持つ博物館なにわの海の時空間、北京のオペラハウス: 中国国家大劇院(表紙)などアジアの作品も取り上げられています。

アンドリューはピーターライスと良くコンビを組んで設計したため、それらの作品も収録されています。

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Archstructure

'06/06/01  upload