ジュビリー教会

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ニュー・ミレニアムに羽ばたく三枚の「帆」 リチャード・マイヤー / ガイ・ノーデンセン、アラップ / ローマ
Jubilee Church / Richard Meier / Guy Nordensen, Arup / Rome

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photo: Simon Glynn,Sam Glynn /galinsky.com

休みを取って旅行したい? だったらローマなんてどうでしょう? なぜならローマにはリチャード・マイヤーのジュビリー教会がありますから!

■ ニュー・ミレニアムの教会

本教会はニューミレニアムを祝った、ローマ教皇庁の一種のキャンペーン: 「50 churches for Rome 2000 (2000年にあと50の教会を)」の一貫として計画されました。 なお「ジュビリー」とは「ミレニアム」を意味します。

上記により開かれた指名コンペで、マイヤーは世界の屈強:ゲーリー、アイゼンマン、カラトラヴァ、 安藤忠雄(彫塑派が多い?)をなぎ倒し、本プロジェクトを手にしました。

■ Light and Space

マイヤーの本教会は、過去の偉大な巨匠たち -ライト、アールト、コルビュジェ- の教会と同様、 建築家にとっての永遠のテーマ:Light and Space:光と空間 に真摯に取り組んだ、大変美しいものです。

建物はヨットの帆を思わせる、真っ白な3枚の湾曲壁:シェルと、 建物の表と裏を区切る一枚の鉛直壁などからなり、それらをふさぐガラスの屋根、壁で空間が定義されています。

鉛直壁の北側には、近隣のためのコミュニティーホールを併設しています。



図1.概形

中央のガラス屋根はアーチにより支持されている(後述)。
鉛直壁右側はコミュニティホールなどのブロック(図化せず)

図2.断面図概形

S1-S3:シェル  W: 鉛直壁
シェルは中央足元を欠き取られた形態になっている。
鉛直壁内には廊下などのスペースを含んでいる

■ 3枚のシェル

ローマの空に誇らしげに輝く3枚の白いシェル。これは同一半径の球から切り取られた形状で半径はいずれも同じ。 シドニー・オペラハウスも同様の手法です。

シェルは厚さ約80cm、3m×2mのプレキャストコンクリートのユニット(ブロック)を 積み上げることで構成されています。
壁内部は重量軽減と断熱のため、スタイロフォームが充填されています。
ブロックは最終的にプレストレスケーブルでタテヨコにしばり上げられます。

このようにブロックを積み上げて構造を作っていく方法は、コロッセオを作り、また プレキャストの偉大な先駆者ピエール・ルイジ・ネルヴィを生んだイタリア人にとっては慣れたものでした。

シェルは風などの外力に対して、当然ながら柱梁などの助けなしで、シェル自身で自立、抵抗しています。

これはシェルが「曲がっている」ということで荷重への抵抗力を持っているからです。

例えば図3のようにシェルに風圧力が作用すると、シェルは倒れようとします。

しかし、シェルは曲がっていることから構造的なせい=深さを持ち、引張力、 圧縮力をその部材面内に発生させます。

これにより面外モーメントを生じることなく、効率的に荷重に抵抗することが出来ます


図3.シェルの横力への抵抗

W:風などの横力
MT: シェルが倒れようとする力:転倒モーメント
T: MTにより生じるシェル内の力:引張力
C: 同上:圧縮力 
MR:MTへの抵抗力: 抵抗モーメント
D: シェルのせい(深さ)
シェルは構造としてのせい=深さDを持っていることで、 外力をシェル面内のみの力で処理、抵抗する。

■ ナナメのアーチで屋根を支持

一番内側のシェルと鉛直の壁の間の斜めのガラス屋根は吊材とアーチの、 ちょっと変わった方法により支持されています。

屋根ガラスはT型断面のアルミ受け材に載っていますが、 その中央を細い吊り材で吊り上げられています。

吊り材は受け材=ガラス境ごとに設けられていますが、 この吊り材の引張力成分に釣合うように圧縮力が発生します。

コレに対してはガラスごとに圧縮材を設けるのではなく、斜めガラスぞいにアーチを配し、 圧縮力を渡しています。

これにより圧縮力はアーチに伝達され、最終的にアーチ端部のみに全圧縮力が渡されます。

■ 「白」より白く!

リチャード・マイヤーは白にこだわる建築家として知られています。 本プロジェクトでも同様です。

北極のエスキモーは 雪を何十種類にも分類するそうですが、 同じようにマイヤーの事務所には何十種類もの白の色見本があり、それらを使い分けるとのことです。

シェルはコンクリートそのままで仕上げられるため、コンクリート自身がマイヤーが満足する白さである必要がありました。

マイヤーは施工者が当初考えていた、一般的なホワイトコンクリートでは満足せず、更に白い白を要求したのです。

このため、施工者は試行錯誤の末、コンクリートに大理石(ビアンコ・カララ)の粉末や酸化チタン(TiO2)を混ぜあわせ、マイヤーの期待に応えました。

満足した証拠にマイヤーは、その後の他のプロジェクトでもこの配合を採用するようになりました。

■ 神聖な空間

「聖三位一体」を暗示する「3」枚のシェルと、神聖な空間を美しく照らす、ガラストップライトから 漏れる光。。。

マイヤーは建築家の力量が最も問われる「教会」を、 ニューミレニアムに、しかも聖地ローマで見事に「船出」させたと言えるでしょう。

図1.トップライトのアーチによる支持

A:アーチ  S:吊り材
TR:吊り材を受ける、壁内のトラス
W:トップライト重量  T: 吊り材引張力
C: アーチに作用する圧縮力 
R: アーチ反力=アーチの全圧縮力 

ガラス重量Wの引張成分:Tは その場で吊り材へ次々と渡されているのに対し、 圧縮成分Cはアーチへ渡され、その力は最終的にアーチ端部のみに生じる。

関連リンク

Richard Meier

マイヤー公式サイト内のジュビリー教会のページ

Guy Nordensen

構造を担当したガイ・ノーデンセンのジュビリー教会のページ

Italcementi

シェルの施工を担当したItalcementi社のレポート。(pdf)
施工風景などの写真

Archipedia

建築ポータルサイト:アーキペディア内のページ

Wired New York Forum

ワイアード・ニューヨーク・フォーラム(BBS)内のジュビリー教会に関する記事

Google

Web
Archstructure




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Richard Meier, Architect Volume 4
Richard Meier,Kenneth Frampton (著)      
マイヤーの最新作品集!

イタリアrizzoli社が出版しているマイヤー完全作品集の最新作。

ジュビリー教会や、NYのアパートメントなどを収録しています。

著名建築評論家:ケネス・フランプトンが執筆し、またスティーブンホールも寄稿してます。


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Richard Meier Recent Works (Universe Architecture Series)
Silvoio Cassara (著)      
近作を集めたお手ごろ価格!

こちらはコンパクトに近作のみを集めたもの。

上記同様、ジュビリー教会や、NYのアパートメント(表紙)などを収録しています。

お手ごろ価格ですし気軽に読めます。


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Tall Buildings Terence Riley , Guy Nordenson (著)     
ガイ・ノーデンセンが企画した高層ビルの展覧会!

'05年、NYのMOMA:近代美術館で開かれた「TALL BUILDING」と題した展覧会の模様をまとめたものです。 ジュビリー教会の構造設計をしたガイノーデンセンが企画に協力しています。展覧会のサイトはこちら(サイトデザインが秀逸!)。

主に最近の、デザインに優れた高層ビルを掲載しています。クールハースの北京CCTV、 最近完成したカラトラバのターニングトルソ、フォスターのセントメアリービル、レンゾピアノのNYタイムズ社屋など。

非常にデザインがよい、クールな!本です


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Contemporary Church Architecture Edwin heathcote (著)     
「現代」の教会を束ねた書!

近年完成した現代の教会を特集したもの。
ジュビリー教会、レンゾピアノのイタリアの教会、坂茂氏の「紙の教会」、スティーブンホールのシアトル、聖イグナティウス教会など。

'05/09/28  upload