ゲーツヘッド・ミレニアム橋
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「ウィンク」するアーチ ウィルキンソン・エア / ジッフォード&パートナーズ / ゲーツヘッド、英
Gateshead Millenium Bridge / Wilkinson Eyre / Gifford and Partners / Gateshead UK
photo: © Simon Glynn / Galinsly.com クリックで拡大 more picture...

イギリスのミレニアム事業のひとつとして建設されたゲーツヘッドミレニアム橋は、 船を通すためにアーチ橋の全体が横倒しに回転する、非常にユニークなものです。

■ コンペ背景

イギリス北部に位置し、北海に注ぐタイン川は、沿岸地域の製造業の物資輸送において、 船舶交通の大動脈として、長い間地域の産業発展に貢献してきました。

しかし近年の重厚産業の低迷と、それに伴う船舶交通の減少により地域は衰退し、 沿岸自治体は何かそれを立て直す再生プログラムを必要としていました。

これらの状況の中で、ゲーツヘッド市は、かつては造船所であった川岸の地域に音楽ホール、 美術館などの文化エリアを建設する再開発計画を立てました。

そしてこのエリアへ渡って行く通路として、また地域のランドマーク:再開発の目玉として、 タイン川にかかる歩道橋の国際設計コンペが開催されました。

■ 「ウィンクするように」動くアーチ橋

コンペの条件として、衰退したといってもまだ十分利用されていた河川交通=船舶の往来 を妨げないよう、水面から高さ25mのクリアランスが確保できる可動橋である必要がありました。

船の航行を妨げない可動橋はこれまでに幾つかの方法がありました。回転式、跳ね上げ式などです。 (図1)

コンペは結果的には英国の建築家クリス・ウィルキンソン氏が優勝しました。 氏の案は、目でウィンクするようにアーチそのものが横倒しになるという、全く新しいものでした。

その案では、川幅をスパンするアーチが歩道面:デッキを吊りケーブルで吊り、そのデッキもアーチと同様に放物線状にカーブしています。 そしてデッキ両端はアーチに結合されています。(図2)

船が通る時はこのアーチとデッキの結合点を軸として橋全体が横倒しになり、 最終的には吊りケーブルが水平になるレベルまで倒れ、所定のクリアランスを確保します。 (写真2) (写真3)




■橋梁各部構造

本橋の各部は次のようになっています。(図3)

鉛直から斜めに16.5°傾いたアーチは断面が変形ひし形をしており、内部は多数のリブ材で補強されています。 アーチからは斜めに吊りケーブルが延び、歩行面:デッキを吊っています。

デッキは箱型断面をした歩行者用通路と、そこから外側に片持ち梁で飛び出す自転車用通路で構成されます。

■ 構造的には・・・(^^;)

本橋は、ドラマティックな可動方式とは裏腹に、構造的には残念ながら少々無理をしていると言えます。

例えばアーチとデッキ面を結ぶ吊りケーブルは、当然、アーチの面内にないため、 アーチは面外方向に大きく曲げモーメントを生じ、大きな強度を必要とします。(図4)

アーチはアーチ面内に荷重がかけられた場合にはアーチ構造として働き、曲げモーメントを生じず効率的となります。 本橋と類似しているカラトラヴァの斜めアーチ橋はこの原則に従っています。
(アラメーダ橋のページ参照)

しかしこのミレニアム橋はそうではないため、生じたモーメントに耐えられる、頑丈なアーチである必要があります。

これらの結果、本橋は重量にしてスパン1mあたり約8トン:通常の約5倍と、高額なものとなってしまいした。


■施工:ドラマティックな輸送、固定イベント

本橋の施工はドラマティックな方法で行われました。

当初、鉄骨製作会社は、工場で製作されたアーチのパーツを、川の上で溶接して組み立てる方法を考えていました。

しかし施工の安全性、また作業時に船の交通を閉鎖しなければならないことを考え、 最終的には、建設地の川下で完全に組み立てた橋全体を、クレーンで現地まで川の上を輸送する方法としました。

川下で組み立てられた橋梁全体は、世界最大級のフローティングクレーンにより、タイン川を約9kmさかのぼり、 約一万人の大観衆が両岸で見守る中、吊り上げ、固定される大イベントが行われました。 (施工風景のサイト)

なお固定の施工要求精度は105mのアーチスパンに対して3mm!と、たいへん厳しいものでした。

■地域のランドマーク:RIBAスターリング賞>

2001年9月にオープンした本橋は少々高額だったものの、地域のランドマークとなり、広く市民に知れ渡りました。

また'02には、英国建築家協会:RIBAのスターリング賞:Building of the Yearを橋梁としては初めて受賞しました。


図1.可動橋の既存の方法の例

A:回転式   B:跳ね上げ式

図2.概 形

a: アーチ
b: アーチ型平面の歩行面:デッキ
c: 斜めの吊りケーブル

図3.部材断面の概形

A: 変形ひし型のアーチ
B: デッキ
a: 歩行通路
b: 自転車通路
c: 箱型(閉鎖)断面部(着色部)
d: 3mピッチごとの片持ち梁
e: 吊りケーブル

図4.斜めアーチの応力

A: ゲーツヘッドの場合:

吊りケーブルの方向がアーチと一致しないため、アーチには面外モーメントMが生じる。
→大きな断面、強度が必要

B: カラトラヴァの斜めアーチ

吊りケーブルの方向はアーチと一致しているため、モーメントは生じない
→アーチは小さい断面で済む

関連リンク

Gateshead Millenium Bridge

同橋オフィシャルサイト。 施工風景なども見ることができます。

Wilkinson Eyre Architect

本橋の建築家:ウィルキンソン氏の事務所。
他にも幾つか興味深い橋梁のデザインをしています。

Gifford and Partners

本橋の構造設計。

books

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★★★

Exploring Boundaries  The Architecture of Wilkinson Eyre   Chris Wilkinson , James Eyre (著)     
ゲーツヘッド・ミレニアム橋で知られる建築家

ゲーツヘッド・ミレニアムブリッジで知られる建築家:クリス・ウィルキンソン氏の作品集。
氏の建築事務所:ウィルキンソン・アイアはどちらかというと橋梁デサインの方で知られています。

中国、広州の Guangzhou West Tower、英国王立バレエ学校のスパイラル状の Floral street bridgeなどが紹介されています。

各作品の概要については事務所HP で知ることが出来ます。

 

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★★★★★
橋のデザインと構造―世界の30橋に見る革新的アイディア
Matthew Wells (著), 綿引 透 (翻訳), 橋本 光行 (翻訳)

世界の最新の橋梁デザインとテクニック! オススメ度★★★★★

カラトラヴァ、シュライヒ氏等による小さな歩道橋から、デンマークのグレートベルト・リンク等の長大橋まで、 バラエティあふれる作品が紹介されています。 ゲーツヘッドミレニアム橋も、もちろん含まれています。

英構造事務所Tecknikerの技師である著者が、各作品ごとに小さなスケッチとともに設計のちょっとしたコツ (ノウハウ)を披露してくれるのが楽しい。

訳にちょい難ありなのが残念ですが、世界の最新の橋梁デザインとテクニックを知ることが出来ます。

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Archstructure





'05/05/01  更新
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